相続放棄を考えている実家の片付け|触る前に確認する順番
公開: |運営: ubusuna works
この記事の結論
相続放棄を検討しているなら、価値がある物の売却・使用・処分を先に進めず、まず実家と家財を撮影し、財産・負債・期限を一覧にして弁護士等へ確認します。相続財産の処分は法定単純承認と扱われる場合がありますが、保存行為などは例外で、片付けをしたら必ず放棄できないという意味ではありません。期限は原則3か月で、調査に時間が必要なら家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法があります。
誰向けか: 親族が亡くなり、相続放棄も選択肢にある一方、賃貸住宅の退去、実家の防犯、家財やごみの扱いに迷っている方
- 売却・使用・処分を止め、家と家財の写真、財産・負債、期限を記録したか
- 相続を知った日と、原則3か月の熟慮期間を確認したか
- 緊急対応は必要最小限にし、費用・作業・処分品の記録を残したか
- 放棄の申述前後で、個別の行為を弁護士や家庭裁判所へ確認したか
相続放棄を考えている実家は、通常の遺品整理と同じ順番で片付け始めないでください。相続財産の全部または一部を処分すると、民法上、相続を単純承認したものと扱われる場合があります。
一方で、実家に入った、写真を撮った、物を動かしたという事実だけで、直ちに相続放棄ができなくなると決まるわけでもありません。保存行為などは法定単純承認の例外です。何を、なぜ、どのように扱ったかで判断が分かれ得るため、「ごみなら捨ててよい」「何も触れてはいけない」と一律に決めず、記録を残して個別に確認します。
最初の48時間で行うこと
片付けや契約の前に、次の5点を一枚にまとめます。
- 亡くなった方の最後の住所と、亡くなったことを知った日
- 実家が持ち家か賃貸か、鍵を持つ人、現在の占有・管理状況
- 預金、不動産、保険、車、家財など分かる範囲の財産
- 借入れ、税金、家賃、公共料金など分かる範囲の負債
- 賃貸の退去、危険箇所、漏水、防犯など期限がある事項
室内に安全に入れる場合は、各部屋、収納、書類、通帳、貴金属、家電、車、メーター類を撮影します。価値や所有者が分からない物は、売らず、使わず、捨てずに分けてください。現金や預金を片付け代、家賃、借金の返済に使う前にも確認が必要です。
倒壊、漏水、火災、腐敗など差し迫った危険がある場合は、人命と被害拡大の防止を優先します。作業前後の写真、作業した理由、処分した物、費用、依頼先を記録し、必要最小限の範囲にします。
相続放棄の期限は、原則3か月
裁判所は、相続放棄をする場合、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があると案内しています。申述先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
財産や負債の調査が3か月で終わらず、承認するか放棄するか決められない場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる制度があります。自動で延びる制度ではないため、期限を過ぎる前に確認してください。
| 確認する日 | その日から行うこと |
|---|---|
| 相続の開始を知った日 | 原則3か月の期限を記録する |
| 実家や請求書を確認した日 | 財産・負債・契約・家財を一覧にする |
| 片付けや退去を求められた日 | 期限と要求内容を記録し、処分前に相談する |
| 申述を出した日 | 受理前でも、財産の処分を独断で進めない |
| 申述が受理された日 | 占有・保存状況と、引渡す相手を確認する |
申述書を出した日と、家庭裁判所に受理された日は同じとは限りません。片付けの契約は、手続きの段階と専門家の助言を確認してから進めます。
片付け前に止めて確認する行為
民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、原則として単純承認したものとみなす一方、保存行為などを例外としています。次の行為は、先に進めず、対象物・目的・金額を伝えて弁護士等へ確認してください。
- 貴金属、骨董品、家具、車、家電などを売る
- 現金や預金を自分や家族のために使う
- 価値がある可能性のある家財を捨てる、譲る
- 遺産から借金、税金、家賃、片付け代を支払う
- 解約返戻金や未収金を受け取る
- 不動産を売る、貸す、解体する契約を結ぶ
- 賃貸住宅の残置物を一括処分する同意書に署名する
日用品や明らかな廃棄物であっても、量、価値、処分の理由、処分時期で評価が変わる可能性があります。「写真がない」「何を捨てたか説明できない」状態を避けるため、判断前の現状を残します。
保存のために必要な対応も、記録を残す
窓や扉の施錠、漏水の停止、危険箇所への立入り防止、腐敗物による衛生被害の拡大防止など、財産の価値を保つために必要な対応があります。これらも範囲を広げず、作業前後を記録してください。
| 状況 | 先に行うこと | 記録すること |
|---|---|---|
| 窓が割れ、侵入のおそれがある | 応急的に閉鎖し、管理者へ連絡 | 破損箇所、対応前後、費用 |
| 漏水・異臭・害虫が広がっている | 元栓や発生源を確認し、緊急対応を相談 | 危険の内容、処分品、依頼先 |
| 通帳・契約書が散在している | 捨てずに保管場所を分ける | 見つけた場所、書類名、保管者 |
| 賃貸人から退去を求められた | 期限と契約上の要求を文書でもらう | 連絡日時、要求内容、回答期限 |
| 実家を誰も管理していない | 鍵、連絡先、緊急時の確認方法を決める | 鍵の本数、訪問日、現況写真 |
保存行為に当たるか、費用を遺産から出せるかは、個別の事情で判断されます。緊急でない全量処分や売却まで「保存」と自己判断して広げないでください。
2023年4月から、放棄後の保存義務は範囲が明確になった
改正民法940条は、相続放棄をした人が、放棄時に相続財産を現に占有している場合、その財産を相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務を負うと定めています。
法務省の説明資料は、遠方の実家を一度も管理しておらず、実際に占有していない人について、この条文による保存義務を負わない例を示しています。以前の情報にある「相続放棄をしても、次の人が管理を始めるまで必ずすべて管理する」という説明は、現在の条文と一致しない場合があります。
ただし、実家の鍵を持ち、居住し、家財を保管するなど、実際の占有があるかは事実関係で判断されます。放棄が受理された後も、自分の判断で鍵を放置したり、財産を廃棄したりせず、引渡し先と方法を確認します。
持ち家と賃貸では、確認先が変わる
持ち家の場合
登記事項証明書、固定資産税の通知、住宅ローン、火災保険、管理費を確認します。売却、賃貸、解体、名義変更の契約は、相続放棄を検討している段階で独断で進めません。
賃貸住宅の場合
賃貸人や管理会社へ、相続放棄を検討していること、家財を直ちに処分できないことを伝え、退去期限と求める作業を書面で確認します。鍵の返却や解約の署名も含め、どこまで対応できるかを相談してください。
家賃が増えることを理由に急いで全量処分すると、後から行為を説明できなくなります。期限が迫っている場合ほど、連絡履歴、室内写真、家財一覧をそろえて法律相談へ持参します。
相談時に持っていく資料
- 戸籍や死亡の記載が分かる書類
- 亡くなった方の最後の住所が分かる資料
- 相続を知った日と、その経緯のメモ
- 預金、不動産、保険、車、家財の一覧
- 借入れ、税金、家賃、公共料金、督促の一覧
- 実家の写真、鍵の保管状況、緊急対応の記録
- 売却・廃棄・支払いなど、すでに行った行為の記録
- 賃貸人、債権者、親族から届いた書面
家庭裁判所は申述の手続きや必要書類を案内しますが、個別の行為が法定単純承認に当たるかという法律相談の窓口ではありません。具体的な判断は弁護士等へ相談してください。法テラスでは、法制度や相談窓口の案内を受けられます。
相続の方針が決まった後の片付け
相続する方針が決まり、家財を処分できる人と範囲が明確になったら、実家じまいの8つの手順で、売却相談と片付けを並行します。業者へ頼む場合は、遺品整理業者の選び方で、作業範囲、家庭ごみを運ぶ許可・委託、追加料金、残す物の確認方法をそろえてください。
相続放棄が受理された場合は、自分が占有している財産の有無と引渡し先を確認したうえで、必要な保存や引渡しを進めます。放棄後に片付け業者へ依頼できるかも、依頼者の権限と作業範囲を確認してから判断します。
よくある質問
実家に入っただけで、相続放棄できなくなりますか?
実家に入った事実だけで一律に決まるものではありません。問題になり得るのは、相続財産を売る、使う、捨てるなどの具体的な行為です。入室の目的、扱った物、処分や支払いの有無を記録して相談してください。
明らかなごみなら、先に捨ててもよいですか?
「ごみ」という呼び方だけで安全とは判断できません。客観的な価値、量、処分理由、他の相続人との関係などで評価が分かれ得ます。緊急性がなければ現状を撮影し、処分前に確認します。
3か月で借金の全額が分かりません。どうすればよいですか?
財産・負債を調査しても判断できない場合は、期限前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法があります。申立てをすれば必ず認められるとは限りません。必要書類と日程を早めに確認してください。
相続放棄が受理された後は、実家を放置してよいですか?
一律には判断できません。放棄時に実家や家財を現に占有している場合は、引渡しまで保存義務を負うことがあります。占有しているか、誰へいつ引き渡すかを確認してください。
出典・確認日(2026年10月6日)
この記事は一般的な制度と確認順を整理したもので、個別の法律判断を行うものではありません。処分済みの物がある場合、期限が迫っている場合、債権者・賃貸人から連絡がある場合は、記録をそろえて弁護士等へ確認してください。